Diverse技術研究所

Dating Scienceについて

IFAC HMSでの発表内容について

8/30-9/2に開催されたIFAC HMS 2016にて”A Medium for Short-Distance Lovers That Exploits an Obstructive Function to Draw Them Back to Face-To-Face Communications”を発表してきました。

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近距離恋愛支援システム

今回発表したシステムは対面状態の恋人たちのコミュニケーションをオンラインからオフラインに遷移させることを目的としています。過去にデートスポットで恋人と思われる人々を観測したところ多くのカップルがデート中にも関わらずスマートフォンなどの利用により目の前にいる恋人とのコミュニケーションを絶っているケースが見られました。

デートは恋人同士がより深くわかり合うための貴重な機会であり、せっかく同じ場所で同じ時を過ごしているのであれば、目の前にいる相手とより多くの実世界コミュニケーションをとるべきであると考えます。 一方、M.マクルーハンが指摘するように、メディアの力は強力であり、それを使う人々や社会を、いつの間にか「不可逆的」に変容させてしまいます。それゆえ、上記のような状況を解決するために単純に「デート中にはメディア(スマホ)を使うのはやめましょう」と提言しても実効性のある解決策にはなりかねます。デート中であってもスマホを手放せないのは使う人の問題ではなくメディアの暗黙的な力なのであり、もはや我々はスマホが無かった時代には戻ることは難しいです。

本研究では、このような状況を解決するための新たなメディアを提案しました。我々は恋人同士の愛着行動(いわゆる「いちゃいちゃ」)に注目しました。愛着行動は、恋人同士が幸福感や信頼関係を深める特別な行動です。特に熱愛カップルにおける愛着行動の際だった特徴は一般にはいやがらせや意地悪としか思えない妨害的行動(これを本研究では「妨害的愛着行動」と呼ぶ)すら、互いに愛情を伝え合う手段となりうえます。これは恋愛関係という独自の信頼関係があることで成立すると考えられます。そこで我々は、妨害的手段によって妨害的愛着行動を伝えるメディアを開発し、これによってデート中におけるスマホ利用に起因する恋人同士の実世界対面コミュニケーションの希薄化問題の解決を目指します。

予備実験とプロトタイプ

妨害的愛着行動伝達メディアは「妨害的行動が意識をオフラインに向けることに有用である」という前提のもとで成立します。そのため、直接的愛着行動と妨害的愛着行動を用いたメディアを開発し、どちらが意識を不快感なくオフラインに戻すことが可能かを調査しました。直接的愛着行動伝達メディアとは「愛している」「大好き」など、その人の「生」の個性や特徴を表現可能な筆談メッセージを送信できるメディアです(下図左)。こちらは、お互いのコミュニケーションをスマホ上で完結させることが可能です。一方、妨害的愛着行動伝達メディアとは、直接的愛着行動伝達メディアと基本機能は同じですが、受信側では使用中の別アプリの画面上に筆談メッセージが描画されます。

妨害的愛着行動伝達メディアは、通常では相手に不快感を与えかねない、妨害行動とも見て取れる行動を伝達する必要があります。そのため、本研究では相手の携帯電話操作を妨害するために、受信側の別アプリ操作画面上に落書きを描画する手法を採用しました(下図右)。

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 実験概要

実験では2種類のメディアを実際の恋人たちに使用してもらい、その様子を観察・分析を行いました。被験者は交際期間が6ヶ月未満の20代で構成されたカップルを選び、実験は被験者以外誰もいない空間で、テーブルを挟んだ状態で実施しました。実験は15分間行い、実験開始5分後に落書きを開始させ、実験の様子はビデオで記録し、メディアの操作履歴もすべてログとして保存しました。

直接的愛着行動伝達メディアを用いた実験では被験者を落書き側とそれを見る側に役割分担し、妨害的愛着行動伝達メディアを用いた実験では、被験者を落書き側と作業側に役割分担しました。作業内容としては、webブラウジングやメールなど様々なタスクが考えられるが、個人差を少なくして集中してもらうため、数独の問題を解く作業を行ってもらいました。

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実験の結果直接的愛着行動伝達メディアでは、男性が携帯電話を操作している際に、女性が話しかけても男性の注意が携帯電話から移ることは少なかったです。これは「話しかける」行為が、携帯電話を操作することへの直接的妨害行為にはなっておらず、無視することが容易であるためと思われます。

一方妨害的愛着行動伝達メディアによる落書きは男性が行っている作業への直接的妨害となり、無視できません。実験中に落書きが数独の上に描かれると、男性の意識が数独から落書きに移り「なにをしているの」などと女性に話しかける様子が見られました。このように妨害的愛着行動伝達メディアによる落書きは作業側(男性)の注意を強く落書き側(女性)に惹きつける効果を有すると思われます。

以上の結果から,妨害的愛着行動伝達メディアは,相手の意識をスマホ(オンライン)からパートナ(オフライン)へと移し替えることに有用なメディアである可能性が明らかになりました。特に重要な機能要件は、

1)相手の注意を効果的に引き付けることができること

2)相手の注意対象を徐々に切り替えられること

3)行為の内容ではなく,行為自体が話題になり得ること

の3点であることが示唆されました。

本実験

予備実験結果に基づき妨害的愛着行動伝達メディアをベースに公共空間で使用できるメディアを開発しました。先述した妨害的愛着行動伝達メディアと基本機能は同じです。ただし受信側のキャンバスには動画再生機能を実装しており任意の動画を再生視聴できるようになっています。送信側が落書きを行うと受信側画面に同じ落書きが描画され、受信側のユーザの動画視聴が妨害されこれが妨害的愛着行動として機能することを期待しています。

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実験

今回の実験では現実的な使用状況を想定しシステムが公共の場でスマホから意識を不快感なく移すことができるかを評価します。予備実験と同じ被験者3組(A・ B・ Cグループ)で実験を行いました。実験は実際の居酒屋で実施し被験者と同じ空間に少なくとも2名以上の外部の人間(被験者と面識無し)がいる状態で行われました。落書き側と,受信側の2つにタスクを分類し、予備実験と同様に、落書き側には女性を割り当てて落書きを行ってもらいました。

受信側には男性を割り当てて映像が徐々に変化するクイズなど、注視する必要のあるコンテンツを視聴してもらいました。実験は15分間行われ、実験開始5分後に落書きを開始させました。実験中の会話は自由に行えますが、互いのタスクについては尋ねることは禁止し、実験終了後にインタビュウを行いました。

その結果、予備実験の状態と同様に愛着行動をとるユーザが目立ち、公共の場でもコミュニケーションを支援する可能性を示唆できました。